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神戸地方裁判所 昭和51年(行ウ)30号 判決 1979年5月25日

姫路市飾磨区細江上山田二七一番地

原告

中央商事株式会社

右代表者代表取締役

井上惣次郎

右訴訟代理人弁護士

吉川武英

右同

水田博敏

姫路市北条字中道二五〇番地

被告

姫路税務署長

田中亘

右指定代理人

高須安子

右同

石田赳

右同

森江将介

右同

城尾宏

右同

杉山幸尾

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

1  被告が、原告の昭和四七年九月一日から昭和四八年八月三一日までの事業年度分法人税について、昭和五〇年六月三〇日付でした所得金額金一億七、四八四万六、〇〇〇円、税額金六、八二八万一、一〇〇円とした更正処分(ただし、裁決で一部取り消された後の金額)のうち申告額である所得金額金一七万七、七一六円、税額金四万九、五〇〇円を超える部分および過少申告加算税金三四一万一、五〇〇円の賦課処分(ただし裁決で一部取り消された後の額)をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨

第二当事者の主張

(原告の請求原因)

一  原告は被告に対し、昭和四八年一〇月三一日、昭和四七年九月一日から昭和四八年八月三一日までの事業年度分法人税として、所得金額金一七万七、七一六円、税額を金四万九、五〇〇円とする確定申告をしたところ、被告が昭和五〇年六月三〇日付で所得金額金一億七、五四四万六、〇〇六円、税額金七、〇〇二万一、一〇〇円とする更正処分および過少申告加算税金三四九万八、五〇〇円の賦課処分をしたので、同年八月二七日、被告に対し異議の申立をしたが、同年一一月二七日付で右異議の申立てを棄却する旨の決定をしたので、同年一二月二三日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同審判所長は、昭和五一年九月一七日付で前記更正処分のうち所得金額金一億七、四八四万六、〇〇六円、税額金六、八二八万一、一〇〇円を超える部分および前記過少申告加算税賦課処分のうち金三四一万一、五〇〇円を超える部分を取り消したが、その余の審査請求を棄却する旨の裁決をなし、右裁決書謄本はそのころ原告に送付された。

二  しかし、被告のなした前記更正処分(ただし、裁決で一部取り消された後の金額)のうち原告の申告額を超える部分および前記過少申告加算税の賦課処分(ただし、裁決で一部取り消された後の金額)は、いずれも違法であるから、これが取消しを求める。

(請求原因に対する被告の答弁)

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二の事実は否認する。

(被告の主張)

一  原告は、昭和三八年七月一日、小村産業株式会社から別紙物件目録記載の各土地(以下、本件土地という)を代金一、二八一万七、〇〇〇円で取得したものであるが、仮に右事実が認められないとしても、井上惣次郎は、昭和三七年九月九日、小村産業株式会社から本件土地を代金一、二五〇万円で取得し、昭和三八年七月一日、これを原告に代金一、二八一万七、〇〇〇円で売却したものであって、原告は、昭和四八年四月五日、パーカー加工株式会社に対し本件土地を代金二億〇、〇九〇万三、九一〇円で売却したから原告には、本件係争事業年度において、別表記載のとおり、右売買に基づく金一億八、三〇八万六、九一〇円の譲渡益が発生した。したがって、原告の本件係争年度における所得金額は、別表記載のとおり、金一億八、三二六万六、〇〇六円となるから、その範囲内でなされた本件更正処分(ただし、裁決で一部取り消された後の金額)は適法であり、したがって、また、本件過少申告加算税の賦課処分(ただし、裁決で一部取り消された後の金額)も適法である。

二  原告は、本件土地の実質的な所有者は原告ではなく、井上惣次郎であると主張する。しかし、原告の会計帳簿によれば、原告は昭和三八年七月一日小村産業株式会社から本件土地を代金一、二八一万七、〇〇〇円で取得し、同日、原告の当座預金(神戸銀行飾磨支店)から金一、〇〇〇万円が同会社に支払われたものとして、

(借方) 土地 金一、二八一万七、〇〇〇円

(貸方) 当座預金 金一、〇〇〇万〇、〇〇〇円

未払金 金 二八一万七、〇〇〇円

の仕訳により経理処理し、同年一〇月二一日、右未払金二八一万七、〇〇〇円について、井上惣次郎からの借入金として振替経理し、昭和四一年六月三〇日には原告に所有権移転登記を経由しているのである。また、原告が、被告に提出した毎事業年度の確定申告書添付の決算報告書によると、原告が本件土地を取得してから譲渡するまで約一〇年間にわたり毎事業年度本件土地は継続して原告の資産として計上されていたし、各事業年度において、固定資産税を原告の損金として支出していたのである。原告が本件土地を所有者として管理支配していたことは明らかである。

三  原告は、また、原告が小村産業株式会社から本件土地を取得したように帳簿処理された原告の会計帳簿は誤りであり、原告に本件土地の所有権移転登記を経由したのは、原告の設立目的が井上惣次郎ら一族の財産管理であるところから、その一環として本件土地の所有者を信託的に原告にした旨主張するが、すべて争う。仮に原告主張のとおり本件土地の所有者を信託的に原告としたものであるとしても、本件において、かかる主張をすることは許されないというべきである。けだし、およそ、会社という法的形態を利用した以上、会社と一定の法律関係にたつ第三者に対し、会社という法的形態に基づいて生じた法律上の責任は、会社自ら負うべきは当然の事理であり、かつ、このように解しないと、個人が会社形態を利用することによって不当に利益を得、あるいは不当に相手の利益を侵害する結果となるからである。

(被告の主張に対する答弁および主張)

一  被告の主張一の事実のうち、井上惣次郎が昭和三七年九月九日小村産業株式会社から本件土地を取得した事実は認めるが、その余の事実は、すべて否認する(なお、別表<2><ロ><3>は否認し、<4>は認める。)。井上惣次郎は、昭和三七年九月九日、小村産業株式会社から本件土地を代金一、二八一万七、〇〇〇円で取得したが、たまたま原告名義に所有権移転登記を経由したところから、原告名義をもって昭和四八年四月五日パーカー加工株式会社に対し本件土地を代金二億〇、〇九〇万三、九一〇円で売却したにすぎず、原告が、本件係争年度において、被告主張のような譲渡益を得ることはあり得ない。

二  被告主張二の事実のうち、原告の会計帳簿には被告主張のような経理処理がなされていること、本件土地は昭和四一年六月三〇日原告に所有権移転登記が経由されていること、被告主張の原告の決算報告書には、被告主張のように本件土地が原告の資産として計上されていることは認めるが、その余は争う。本件土地の固定資産税については、原告の帳簿上では仮受金として処理され、実際は株式会社井上組が代払いしている。

三  原告は、昭和三八年四月二三日、井上惣次郎ら一族の財産を管理することを主たる目的として設立された株式会社であるが、本件土地は、それより前の昭和三七年九月九日、井上惣次郎が小村産業株式会社より代金一、二八一万七、〇〇〇円で買い受け、同日、金二〇〇万円、同月二〇日、金四四〇万円、同年一二月二八日、金二〇〇万円、昭和三八年三月一八日金三〇万円、同年六月九日、金二〇〇万円、昭和三九年一〇月六日、金一五〇万円、昭和四一年七月一八日、金六〇万円を支払ったものであるところ、原告の会計帳簿によれば、原告が昭和三八年七月一日小村産業株式会社から本件土地を代金一、二八一万七、〇〇〇円で取得し、同日、右代金のうち金一、〇〇〇万円を原告の当座預金から支払われたように帳簿処理されているけれども、原告の当座預金における右金一、〇〇〇万円は原告設立の際の株式払込金(実際は株式会社井上組の簿外資産よりの借入金)であって、本件土地代金には支払われておらず、株式会社井上組の簿外資産たる上井五郎、大西俊一名義の普通預金口座(甲第一五号証、第一六号証)に返還されているのであるから(もっとも、入金の経過は不明である。)、右帳簿処理は誤りである。当時原告には本件土地売買代金の支払に当てるべき金員は全く存在しなかったのである。ところで本件土地は昭和四一年六月三〇日原告に所有権移転登記が経由されているのであるが、これは前記のような帳簿処理をしてきた経緯もあって、原告は井上惣次郎らの所有物件の管理を行なうため信託的に所有権移転登記を行なったものであるにすぎず、本件土地の実質的な所有権を有する者は井上惣次郎であって、原告ではない。

第三証拠

(原告)

一  甲第一号証、第二号証の一ないし七、第三号証ないし第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証ないし第一六号証。

二  証人井上猪十郎

三  乙第一五号証の一の成立は不知、その余の乙号証の成立はすべて認める。

(被告)

一 乙第一号証ないし第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一、二、第七号証ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし九、第一二号証の一ないし五、(乙第一三号証は欠番)、第一四号証、第一五号証の一、二、第一六号証、第一七号証。

二 証人吉田哲哉、同河野恵一。

三 甲第一号証、第二号証の一ないし七、第一三号証、第一五、一六号証の成立は不知、その余の甲号証の成立はすべて認める。

理由

請求原因一の事実は当事者間に争いがない。以下本件更正処分および過少申告加算税賦課処分(いずれも裁決で一部取り消された後の金額)の適否について検討する。

一  本件土地は、原告の会計帳簿によれば、原告が昭和三八年七月一日小村産業株式会社から代金一、二八一万七、〇〇〇円で取得し、同日、原告の当座預金(神戸銀行飾磨支店)から金一、〇〇〇万円が同会社に支払われたものとして、

(借方) 土地 金一、二八一万七、〇〇〇円

(貸方) 当座預金 金一、〇〇〇万〇、〇〇〇円

未払金 金 二八一万七、〇〇〇円

の仕訳により経理処理し、同年一〇月二一日、右未払金二八一万七、〇〇〇円について、井上惣次郎からの借入金として振替経理していること、本件土地は昭和四一年六月三〇日小村産業株式会社から原告に所有権移転登記が経由されていること、原告が、被告に提出した毎事業年度の確定申告書添付の決算報告書によると、原告が本件土地を取得したとしたときから譲渡したとしたときまで約一〇年間にわたり毎事業年度本件土地は継続して原告の資産として計上されていたこと、原告(井上惣次郎が原告名義をもってしたかどうかはともかく)が昭和四八年四月五日、パーカー加工株式会社に対し本件土地を代金二億〇、〇九〇万三、九一〇円で売却したことは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない乙第一一号証の九、第一二号証の一ないし五、証人井上猪十郎の証言に弁論の全趣旨によれば、原告が本件土地を取得して昭和四一年六月三〇日所有権移転登記を経由したときから譲渡したときまでの毎事業年度において、本件土地に対する固定資産税を原告の会計帳簿上損金として計上していることが明らかである。ところで証人井上猪十郎の証言とこれにより真正に成立したと認める甲第一号証、第二号証の一ないし七、成立に争いのない甲第三、四号証に弁論の全趣旨によれば、原告は井上惣次郎ら一族の者によって昭和三八年四月二三日設立された株式会社であるが、本件土地は、それより前の昭和三七年九月九日、井上惣次郎が小村産業株式会社より名目上の代金額は金一、二八一万七、〇〇〇円、実際の代金額は金一、二五〇万円として買い受ける旨の売買契約を締結し、同日、金二〇〇万円、同月二〇日、金四四〇万円、同年一二月二八日、金二〇〇万円、昭和三八年六月九日、金二〇〇万円、昭和三九年一〇月六日、金一五〇万円、昭和四一年七月一八日、金六〇万円、以上合計金一、二五〇万円が支払われたところ、昭和三七年九月二一日、右代金のうち金六四〇万円が支払われたところから、本件土地のうち三筆(兵庫県加古郡稲美町岡字川向二六一六番の五、同番の九、同所二六七三番の二)について、債権者を井上猪十郎、債権額を金六四〇万円とする抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記が経由されたことを認めることができ、これを覆えすに足りる証拠はない。

右認定の事実関係を総合すれば、本件土地は、原告が昭和三八年七月一日小村産業株式会社から直接取得したものではなく、原告が設立される前の昭和三七年九月九日、井上惣次郎が小村産業株式会社から名目上の代金額は金一、二八一万七、〇〇〇円、実際の代金額は金一、二五〇万円として買い受けたものであるが、原告が設立されて間もない昭和三八年七月一日、井上惣次郎は本件土地を小村産業株式会社との間の名目上の代金額一、二八一万七、〇〇〇円をもって原告に譲渡し、当時既に井上惣次郎から小村産業株式会社に対し実際の代金額金一、二五〇万円のうち金一、〇四〇万円が支払われていたところから、原告の当座預金(神戸銀行飾磨支店)から金一、〇〇〇万円の支払いを受け、原告の会計帳簿においては、原告が昭和三八年七月一日小村産業株式会社から代金一、二八一万七、〇〇〇円で取得し、同日、原告の当座預金(神戸銀行飾磨支店)から金一、〇〇〇万円が小村産業株式会社に支払われたものとして、

(借方) 土地 金一、二八一万七、〇〇〇円

(貸方) 当座預金 金一、〇〇〇万〇、〇〇〇円

未払金 金 二八一万七、〇〇〇円

の仕訳により経理処理し、同年一〇月二一日、右未払金二八一万七、〇〇〇円について、井上惣次郎からの借入金として振替経理したものと認めるのが相当である。もっとも、原告は、原告の当座預金(神戸銀行飾磨支店)における右金一、〇〇〇万円は原告設立の際の株式払込金(実際は株式会社井上組の簿外資産よりの借入金)であって、本件土地代金には支払われておらず、株式会社井上組の簿外資産たる上井五郎、大西俊一名義の普通預金口座(甲第一五号証、第一六号証)に返還されたものであると主張し、成立に争いのない乙第一一号証の二、甲第一〇号証、第一一号証、証人井上猪十郎の証言によれば、原告の当座預金(神戸銀行飾磨支店)における右金一、〇〇〇万円が原告の会計帳簿では原告設立の際の株式払込金として計上されているものの、実際は井上惣次郎ら一族の者が設立した株式会社井上組の簿外資産からの借入金であることが認められるけれども、原告の当座預金(神戸銀行飾磨支店)における右金一、〇〇〇万円が株式会社井上組の簿外資産である上井五郎、大西俊一名義の普通預金口座(甲第一五号証、第一六号証)に返還されたとの原告の主張事実については、証人井上猪十郎の証言には副うものがあるものの、上井五郎、大西俊一名義の普通預金口座(甲第一五号証、第一六号証)が株式会社井上組の簿外資産であるとしても、原告の当座預金(神戸銀行飾磨支店)における右金一、〇〇〇万円(小切手)が、いかなる経過を経て、どのように上井五郎、大西俊一名義の普通預金口座(甲第一五号証、第一六号証)に入金されたものであるかについては、原告の主張によっても不明であるというのであり、また、証人井上猪十郎の証言によっても明らかにすることができないのであるから、成立に争いのない乙第一五号証の二、証人河野恵一の証言によって認められる次の事実、すなわち、被告が原告の昭和四二年九月一日から昭和四三年八月三一日までの事業年度分法人税を調査するため、被告の係官河野恵一が昭和四四年二月ごろ井上猪十郎と面接するなどして調査した際、当時既に原告設立の際の株式払込金一、〇〇〇万円が株式会社井上組の簿外資産からの借入金であることが被告の知るところであったにもかかわらず(前記甲第一〇号証、第一一号証、証人井上猪十郎の証言によって認められる。)、原告が被告に対し、原告の当座預金(神戸銀行飾磨支店)における前記金一、〇〇〇万円(小切手)は、本件土地代金一、二八一万七、〇〇〇円のうち金一、〇〇〇万円に支払われたとの回答をしている事実にも照らし、原告の主張事実に副った前記の証人井上猪十郎の証言は、にわかに採用できないし、他に原告の右主張事実を認めて、前記認定事実を覆えすに足りる証拠はない。

二  そうすると、原告は、昭和三八年七月一日、本件土地を井上惣次郎から代金一、二八一万七、〇〇〇円で取得したものであって、原告が、昭和四八年四月五日、パーカー加工株式会社に対し本件土地を代金二億〇、〇九〇万三、九一〇円で売却したものというべきであるから、原告には、本件係争年度において、別表記載のとおり、右売買に基づく金一億八、三〇八万六、九一〇円の譲渡益が発生したというべきである(なお、別表の<2><ロ>の譲渡手数料が金五〇〇万円であることは成立に争いのない乙第一四号証、第一六号証、第一七号証によって、別表の<3>の公租公課が金一、八六〇円であることは成立に争いのない乙第一二号証の四、五によって、それぞれ認めることができ、別表の<4>の前期分未納事業税が金四八〇円であることは当事者間に争いがない。)。したがって、原告の本件係争年度における所得金額は、別表記載のとおり金一億八、三二六万六、〇〇六円となるから、その範囲内でなされた本件更正処分(ただし、裁決で一部取り消された後の金額)は適法であり、したがって、また、本件過少申告加算税の賦課処分(ただし、裁決で一部取り消された後の金額)も適法であるというべきである。

よって、原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 阪井昱朗 裁判官 谷口彰 裁判官 上原理子)

別表

<省略>

別表 物件目録

<省略>